
誹謗中傷を理由に訴えられたとき、「相手にも傷つけられているので、こちらからも請求したい」と考えることがあるでしょう。民事裁判では、一定の条件を満たせば、訴えられた側が同じ裁判の中で相手を訴える「反訴」を利用できます。ただし、訴えられたことへの不満や、相手の主張が間違っているという理由だけで、損害賠償が認められるわけではありません。
反訴を検討するときは、同じ裁判で扱える請求なのかという手続きの問題と、相手に賠償責任があるのかという内容の問題を分けて考える必要があります。本記事では、誹謗中傷の裁判で反訴する条件、証拠の準備や提出の流れ、費用と注意点を解説します。裁判所から書類が届いている方は、反訴の検討と並行して、答弁書の提出期限も確認してください。
目次
誹謗中傷で訴えられたら反訴できる?反論・別の訴訟・刑事告訴との違い
誹謗中傷で訴えられた場合でも、相手に対して請求できる権利があり、手続きの条件を満たせば反訴を検討できます。まずは、相手の請求を退けたいのか、自分への賠償や処罰を求めたいのかを整理しましょう。
反訴は訴えられた側が同じ裁判で相手に請求する手続き
反訴とは、被告が、すでに起きている裁判の原告に対して別の請求をする手続きです。最初に起こされた訴訟を「本訴」と呼び、反訴では本訴の被告が反訴原告、本訴の原告が反訴被告となります。たとえば、SNSへの投稿について賠償を求められている人が、関連する相手の投稿によって自分も名誉を傷つけられたとして、賠償を求める場面が考えられます。
反訴は、単に裁判所へ不満を伝えることとは違い、独立した請求です。請求の根拠となる事実を示し、その裏付けとなる証拠を提出しなければなりません。本訴と反訴はそれぞれ判断されるため、双方の請求の一部が認められることもあり、どちらか一方だけが勝つとは限りません。
反論は相手の請求を争うもので、反訴とは目的が異なる
相手の主張する投稿をしていない、名誉毀損に当たらない、請求額が高すぎると主張することは、本訴に対する反論です。目的は、相手の請求の全部または一部を認めないよう裁判所に求めることにあります。これに対し、反訴は「相手から自分にお金を支払ってほしい」など、自分の請求について判決を求めるものです。
答弁書に「こちらも被害を受けた」と書くだけで、自動的に反訴になるわけではありません。相手の請求を退けるだけなら、反訴をしなくても争えます。たとえば、投稿者を取り違えられている場合は、その点への反論と証拠の提出が先に必要です。反論で達成できることと、別の請求が必要なことを分けると、対応が明確になります。
反訴の条件を満たさない請求は別の訴訟で争う方法がある
相手への請求が本訴と関係しないなど、反訴の条件を満たさない場合は、別の訴訟で請求する方法があります。たとえば、投稿をめぐる裁判とは関係のない貸金の返還請求は、同じ相手への請求であっても、当然に反訴で扱えるわけではありません。反訴として扱えないことと、請求する権利自体がないことは別の問題です。
別訴では、請求の内容や相手の住所などに応じて、訴えを起こす裁判所を確認します。本訴とは別に書類を準備し、進行を管理する負担も見込んでおきましょう。また、損害賠償請求には時効の問題があるため、本訴が終わるまで待つのが適切とは限りません。反訴が難しいとわかった段階で、別訴の必要性と請求の期限を確認することが大切です。
刑事告訴は相手の処罰を求めるもので、損害賠償を求める反訴とは異なる
刑事告訴は、犯罪の被害を受けた人などが捜査機関に被害の事実を申告し、処罰を求める手続きです。民事裁判で損害賠償を求める反訴とは、目的も進め方も異なります。相手の投稿が名誉毀損罪や侮辱罪などに当たるかは、犯罪ごとの条件に照らして判断されます。
刑事告訴をしても、それだけで相手から慰謝料が支払われるわけではありません。逆に、民事上の賠償責任が認められる場合でも、必ず刑事処分につながるとは限らない点に注意が必要です。相手が自分を訴えたというだけで、犯罪が成立することもありません。賠償、投稿の削除、処罰のうち何を求めるのかを整理し、必要な手続きを選びましょう。
| 対応方法 | 主な目的 | 手続きの場 |
|---|---|---|
| 本訴への反論 | 相手の請求を争う | すでに起きている裁判 |
| 反訴 | 相手への自分の請求を認めてもらう | 本訴を扱う裁判所 |
| 別の訴訟 | 独立して相手に請求する | 管轄のある裁判所 |
| 刑事告訴 | 犯罪について処罰を求める | 警察・検察などの捜査機関 |
誹謗中傷の裁判で反訴するための条件と損害賠償が認められるケース
反訴を起こすには、元の裁判との関連性や、提起する時期などの条件を満たす必要があります。さらに、賠償を受けるには、相手の違法な行為と、それによって生じた損害を示さなければなりません。
民事訴訟法第146条により、元の訴訟の請求や反論と関連する請求であること
民事訴訟法第146条は、反訴の請求が、本訴の請求または防御の方法と関連することを求めています。防御の方法とは、相手の請求に対して、自分を守るために出す主張などを指します。同じ投稿の応酬や共通の出来事をめぐる請求であれば、関連性を検討しやすくなります。
ただし、同じSNSを使っていた、以前から仲が悪かったというだけで、必ず関連性が認められるわけではありません。どの事実や争点が共通し、なぜ同じ裁判で判断することが適切なのかを具体的に説明する必要があります。相手が同じであることだけでは、反訴の条件を満たしません。なお、少額訴訟では反訴が禁止されているため、通常訴訟への移行を検討するなど、手続き自体の確認が必要です。
参考:e-Gov法令検索「民事訴訟法」第146条・第369条、裁判所「簡易裁判所の民事事件Q&A」
原則として口頭弁論の終結前に提起し、裁判を著しく遅らせないこと
反訴は、口頭弁論が終結するまでに提起する必要があります。口頭弁論の終結とは、裁判所が判決に向けて、当事者の主張や証拠を踏まえた審理を締めくくることです。判決が出る前ならいつでもよいという理解では、間に合わないおそれがあります。
また、終結前でも、反訴によって裁判が著しく遅れる場合は認められません。終盤になって大量の新たな証拠調べを要する請求を加えると、本訴の解決を遅らせる問題が生じます。控訴審で反訴する場合には、原則として相手方の同意が必要となるなど、追加の制限もあります。反訴の可能性に気づいたら、審理が進む前に相談し、準備の見通しを立てましょう。
ほかの裁判所だけが扱える請求に当たらないこと
法律によって、特定の裁判所だけが扱えると決まっている事件があります。これを「専属管轄」といい、反訴の請求がほかの裁判所の専属管轄に属する場合は、原則として反訴できません。元の裁判を担当する裁判所が、あらゆる種類の請求をまとめて判断できるわけではないのです。
ただし、当事者の合意で定めた専属管轄は、この制限から除かれています。また、知的財産関係などには法律上の例外があるため、条文の適用を確認する必要があります。相手が遠方に住んでいる、請求額が変わるといった事情だけで、直ちにこの条件に反するとはいえません。専門用語だけで判断せず、自分が求める請求の種類と現在の裁判所を弁護士に伝えて確認しましょう。
相手の投稿も名誉毀損やプライバシー侵害に当たり、損害が生じているケース
相手も自分の社会的な評価を下げる投稿をしていた場合や、私生活上の情報を無断で公開していた場合には、損害賠償を検討できます。たとえば、事実ではない不正行為をしたと書かれた場合や、公開されていない住所を晒された場合などです。ただし、不快な言葉であることだけで、必ず賠償責任が生じるわけではありません。
投稿の意味、誰について書かれたとわかるか、公開された範囲、投稿の目的などを確認します。名誉毀損では、公共性や公益目的、内容の真実性なども問題となり、プライバシー侵害では事実であっても違法となることがあります。さらに、その投稿を相手がしたことや、損害とのつながりを示す証拠も必要です。反訴の手続き上の条件を満たしていても、このような賠償責任の裏付けがなければ請求は認められません。
相手の提訴が著しく相当性を欠き、違法な訴えとして損害が生じているケース
投稿そのものとは別に、相手が裁判を起こした行為が違法となり、損害賠償の対象になる場合もあります。ただし、裁判で紛争の解決を求めることは原則として正当な行為であり、違法と判断される範囲は限られます。最高裁昭和63年1月26日判決は、請求に事実上・法律上の根拠がなく、提訴した人がそれを知っていた、または容易に知り得たのにあえて訴えるなど、著しく相当性を欠く場合という厳しい基準を示しています。
たとえば、投稿していないことを相手が知っていたと疑われる場合には、その認識を裏付ける資料が重要になります。自分が否定していたという事情だけで、相手も請求の根拠がないと理解していたとはいえません。提訴前に交わした説明や客観的な資料を検討し、違法な提訴によって生じた負担との関係を示す必要があります。
参考:裁判所「最高裁判所第三小法廷・昭和63年1月26日判決」
誹謗中傷で反訴する手続きの流れ|証拠の準備から反訴状の提出まで
反訴の準備は、本訴への対応を止めずに進めることが大切です。届いた書類と証拠を整理し、相手に何を、どのような理由で請求するのかを明らかにしていきましょう。
訴状の内容を確認し、答弁書の提出期限や裁判の日程を把握する
裁判所から書類が届いたら、まず請求額、問題とされている投稿、相手の主張する被害を確認します。訴状だけでなく、添付された証拠や期日の呼出状、答弁書の案内にも目を通してください。反訴を考えている間も、本訴の手続きは進みます。
答弁書を出さずに期日にも対応しないと、相手の主張する事実を認めたものとして扱われるなど、不利になるおそれがあります。期限が迫っている場合は、担当の裁判所書記官に手続きの確認をしつつ、弁護士へ早めに相談しましょう。裁判所が手続きの案内をしてくれることと、自分に有利な主張を考えてくれることは別です。封筒や送達に関する書類も含めて保管し、受け取った日と今後の予定を記録しておくと相談が進みやすくなります。
相手の投稿・URL・投稿日時や、提訴に至るやり取りを保存する
相手の投稿は、削除や編集が行われる前に保存します。問題の文章だけを切り取ると意味がわからなくなることがあるため、前後の投稿や返信も残しておきましょう。スクリーンショットに加え、可能であればページ全体の保存や印刷用データの作成も行います。
- 投稿の本文、画像、動画と前後の文脈
- 投稿URL、投稿日や時刻、確認した日時
- アカウント名、識別用のID、プロフィールの情報
- 公開範囲や閲覧・拡散の状況がわかる表示
- 提訴前の通知書、メール、メッセージの履歴
アカウント名は変更できるため、名前が一致することだけで投稿者を断定しないよう注意が必要です。加工した画像のみを残すのではなく、元のデータも保管してください。相手に不利な部分だけでなく、自分の返信や不利に見えるやり取りも含めて弁護士に渡すと、全体を踏まえた判断につながります。
請求する損害の内容と金額を整理し、裏付けとなる資料を集める
損害は、精神的な苦痛に対する慰謝料と、治療費や営業上の損失などの財産的な損害に分けて整理するとわかりやすくなります。それぞれについて、相手のどの行為によって生じたのかを対応させましょう。単に金額を並べるのではなく、発生した事情と計算の根拠を説明できるようにすることが大切です。
通院している場合は診断書や領収書、仕事への影響を主張する場合は契約の解約通知や売上資料などが考えられます。ただし、投稿後に売上が下がったという時系列だけでは、投稿との因果関係が十分に示せないこともあります。取引先からの連絡など、影響の経緯がわかる資料も確認してください。慰謝料にも一律の金額表があるわけではないため、投稿内容や広がり方を踏まえ、説明できる金額を検討しましょう。
請求内容・理由・元の訴訟との関連性を記載した反訴状を作成する
反訴状には、誰が誰に何を求めるのかという請求の趣旨と、その根拠となる事実である請求の原因を記載します。金銭を請求する場合は、請求額や損害の内訳を整理し、投稿と被害の関係を具体的に説明します。あわせて、本訴との関連性がわかるよう、共通する出来事や争点を示すことも重要です。
記載内容と証拠を対応させておけば、裁判所や相手が請求の内容を理解しやすくなります。「一方的で許せない」といった評価を重ねるより、いつ、どの媒体で、誰に向けて何が公開されたかを明確にしましょう。証拠ごとに番号を付け、その資料で何を証明するのかを記した証拠説明書も準備します。記載方法や必要な添付資料は事件によって異なるため、一般的な書式をそのまま埋めれば足りるとは限りません。
元の訴訟を扱う裁判所に反訴状と証拠を提出し、主張と立証を進める
反訴状などの準備ができたら、本訴を扱っている裁判所に提出し、必要な手数料を納めます。提出後に不備の修正を求められる場合もあるため、裁判所からの連絡を確認してください。その後は相手の反論を受け、書面や証拠の提出などを通じて、自分の請求の根拠を示していきます。
2026年5月21日に民事裁判のデジタル化に関する改正法が全面施行され、適用事件ではオンライン提出が利用され、弁護士などにはオンライン提出の義務があります。ただし、施行前に起きた本訴への反訴は旧法による扱いとなるため、反訴する日だけで提出方法を判断しないことが大切です。必要な部数や形式、提出方法は、担当部の案内に従いましょう。本訴と反訴のどちらへの主張なのかも、書面上で区別しておくと混乱を防げます。
参考:法務省「民事訴訟法等の一部を改正する法律について」、裁判所「民事訴訟フェーズ3に向けた準備の手引」
誹謗中傷の反訴にかかる費用と解決までの期間
反訴の負担を考える際は、裁判所に納める費用に加え、弁護士費用や証拠を準備する時間も見込む必要があります。請求額と実際に認められそうな金額を分け、解決までの見通しとともに確認しましょう。
裁判所に納める手数料は請求額や適用される手続きによって異なる
反訴を起こす際にも、原則として裁判所への手数料が必要です。金銭の支払いを求める場合は、請求する金額などを基準に算定します。本訴の被告だから無料で追加の請求ができる、という仕組みではありません。
本訴と目的を同じくする反訴には手数料の控除の規定がありますが、同じ相手との争いであれば、どの請求も控除されるわけではありません。また、2026年5月21日施行の改正法が適用されるかどうかで、手数料や納付方法の扱いが異なります。旧法適用事件では収入印紙や郵便費用の予納、新法適用事件では電子納付など、事件に応じた確認が必要です。裁判所の最新の手数料案内を参照し、反訴の内容を伝えて担当窓口に納付額を確認しましょう。
参考:裁判所「手数料」
弁護士の着手金・報酬金と、反訴に伴う追加費用を確認する
弁護士費用には、依頼時に支払う着手金、成果に応じた報酬金、資料の取得などにかかる実費が含まれることがあります。料金の決め方は事務所によって異なり、時間に応じた料金や定額制の場合もあります。本訴への対応をすでに依頼していても、反訴が契約の範囲に含まれるとは限りません。
見積もりでは、反訴を追加した場合の着手金、請求が一部だけ認められた場合の報酬、和解した場合の計算方法を確認しましょう。本訴で相手への支払いを減らした成果と、反訴で賠償を得た成果が、それぞれ報酬の対象となる契約も考えられます。控訴や強制執行まで依頼する場合の費用も、別途必要か確かめてください。総額の目安だけでなく、どの段階で何を支払うのかを確認すると、資金の準備がしやすくなります。
解決までの期間は争点や証拠の量、和解の見込みによって変わる
誹謗中傷の反訴について、何か月で終わると一律に示すことはできません。投稿者が誰か、内容が違法か、どの程度の被害が生じたかなど、争われる点によって必要な審理が変わります。共通する証拠が多ければまとめて整理しやすい一方、反訴で新たな争点が増えると、準備や確認に時間がかかります。
書面と証拠のやり取りだけで整理できるか、当事者や証人から話を聞く必要があるかも、期間を左右する要素です。双方が和解条件を調整できれば判決を待たずに解決することもありますが、控訴が行われればその分の期間も必要になります。また、判決が出ることと、実際に入金されることは同じではありません。弁護士には、第一審の見通しに加え、和解や回収に進んだ場合の予定も確認しておきましょう。
見込める賠償額と費用・時間を比較して反訴するか判断する
反訴するかは、請求できる最大額だけでなく、証拠からどこまで認められそうかを踏まえて判断します。請求額を高く設定しても、その分の賠償を受けられる保証はありません。相手に支払う資力があるか、判決後に回収の手続きが必要になりそうかも確認したい点です。
たとえば、認められる可能性がある金額に対し、追加の弁護士費用や準備の負担が大きければ、和解も比較対象になります。一方で、投稿の削除や今後の接触の禁止など、金銭以外の解決条件を重視したい場合もあるでしょう。何を優先するかによって、反訴を起こす意味は変わります。相手を困らせることを判断基準にせず、自分の被害をどう回復し、争いをどう終えるかを軸に検討してください。
誹謗中傷で反訴する際の注意点|訴えられただけでは賠償請求の理由にならない
反訴は、自分の権利を守るための選択肢ですが、本訴への対応を不要にしたり、勝訴を保証したりするものではありません。提訴の違法性、費用の回収、新たな投稿によるリスクを理解して進めましょう。
相手が敗訴しても、訴えた行為が直ちに違法になるわけではない
相手の請求が棄却されても、それだけで「不当に訴えられたので慰謝料を請求できる」とは限りません。裁判は、事実や法律について対立があるときに判断を求める制度であり、証拠が足りず請求が認められないこともあります。敗訴した人すべてが賠償責任を負うわけではありません。
提訴自体の違法性を争う場合は、相手が訴えた時点で何を知っていたかなど、本訴の勝敗とは別の検討が必要です。請求額が高いことや、裁判への対応が大変だったことだけでも十分とはいえません。相手が根拠のない請求だと理解できた事情を、客観的な資料でどこまで示せるかを確認します。なお、自分から反訴を起こす場合も同様であり、裏付けのない請求を報復として行うことは避けるべきです。
反訴をしても元の訴訟への反論や証拠の提出は必要になる
反訴を提起しても、本訴に対する答弁や証拠の提出が不要になるわけではありません。相手の投稿に問題があることと、自分の投稿について賠償責任を負うかは、それぞれ判断されます。「相手も書いているから自分は責任を負わない」という主張だけでは、本訴への十分な反論にならない場合があります。
本訴では、自分が投稿したか、誰のことを書いたものか、投稿がどのように理解されるかなど、問題となる点ごとに対応します。反訴では、相手の行為の違法性と自分の損害を主張していくことになります。双方に賠償責任が認められる可能性もあるため、自分の請求だけに準備を集中させないでください。本訴用と反訴用に主張・証拠・提出期限を整理しておくと、抜け漏れを防ぎやすくなります。
勝訴しても支払った弁護士費用の全額を回収できるとは限らない
判決で相手に訴訟費用の負担が命じられても、支払った弁護士費用の全額が当然に戻るわけではありません。訴訟費用には裁判所への手数料などが含まれますが、依頼した弁護士への報酬は、原則として別に考える必要があります。請求が一部だけ認められた場合は、訴訟費用の負担割合が分けられることもあります。
名誉毀損などの不法行為による損害賠償では、相当な範囲の弁護士費用が損害として認められる場合があります。ただし、実際の支払額と同額になるとは限らず、請求すれば一定割合が必ず加算されるという保証もありません。違法な提訴による費用を求める場合も、提訴の違法性と費用との関係が問題となります。費用の回収を前提に依頼するのではなく、回収できなかった場合の自己負担も見込んで判断しましょう。
報復目的の投稿や相手への直接連絡で新たなトラブルを起こさない
訴えられたことへの怒りから、相手の氏名や訴状の画像を公開したり、攻撃的な投稿をしたりすることは避けましょう。裁判が起きている事実や、書類に書かれた内容であっても、公開の仕方によっては名誉やプライバシーの侵害が問題になります。個人情報を隠したつもりでも、前後の投稿から相手がわかる場合があります。
また、反訴の取り下げなどと引き換えに金銭を強く要求したり、何度も直接連絡したりすれば、新たな争いにつながるおそれがあります。相手に代理人が付いている場合は、連絡窓口を確認し、感情的な接触を控えてください。自分の過去の投稿も、証拠を保存せずに削除すると経緯の確認が難しくなります。削除や訂正が必要かは証拠保全とあわせて検討し、公開の場ではなく裁判の手続きの中で主張を伝えるようにしましょう。
反訴だけでなく、反論・和解・別の訴訟も含めて解決方法を検討する
反訴が可能であっても、それが自分にとって最も負担の少ない解決方法とは限りません。本訴への反論によって相手の請求を争う、双方の請求を和解で整理する、独立した請求を別訴で行うなど、ほかの選択肢もあります。請求の根拠や解決したい内容に応じて、方法を比べてみましょう。
和解では、支払額だけでなく、対象投稿の削除、今後の投稿や連絡の扱いなどを取り決めることも考えられます。ただし、「今後一切請求しない」といった条項が、どの出来事や損害まで含むのかは十分に確認してください。反訴をしなければ和解で自分の被害を伝えられない、というわけでもありません。譲れる条件と守りたい条件を分けておけば、裁判を続ける場合にも、話し合いに応じる場合にも判断しやすくなります。
誹謗中傷で反訴を考えたら、条件や証拠を整理して弁護士に相談しよう
誹謗中傷の裁判で反訴をするには、本訴との関連性や提起の時期などの条件を満たし、相手の違法な行為と自分の損害を裏付ける必要があります。訴えられたこと自体への不満と、法律上認められる請求の根拠を分けることが、適切な対応の出発点です。
相談時には、裁判所から届いた書類一式、自分と相手の投稿、提訴前のやり取り、損害に関する資料をまとめて持参しましょう。出来事を日付順に並べたメモと、賠償や削除など希望する解決内容もあると、事情を伝えやすくなります。本訴への対応を依頼済みなら、その弁護士に反訴を含む対応方針と追加費用を確認してください。
反訴を考えていても、答弁書の提出期限や裁判の日程への対応は先延ばしにできません。まずは本訴で不利益を受けないための準備を進め、そのうえで反訴・和解・別訴の見通しを比較することが大切です。感情だけで手続きを選ばず、証拠、費用、回収の可能性を踏まえ、自分の被害の回復につながる方法を弁護士と検討しましょう。